はじめに
赤くて小さな実が茎の先につく「ワイルドストロベリー」。その可愛らしい姿は見る人を惹きつけ、一粒摘んで口に入れれば甘さと芳醇な香りが広がります。今回は、そんなミニチュア版のイチゴ「ワイルドストロベリー」の魅力をたっぷりご紹介します。
筆者が勤務していた園芸店でも、このハーブは初心者から上級者まで幅広い層に人気があり、シーズン中には多くの苗が売れていました。特に、ワイルドストロベリーの販売スペースでは、子供たちが足を止めて親子で楽しそうに話す姿が印象的だったのを覚えています。
さらに、北海道でも野生化するほど丈夫で寒さにも強いこの植物は、初心者でも簡単に育てられるのが魅力です。この記事を参考に、ぜひご家庭でプチ収穫体験を楽しんでみてください!

ワイルドストロベリーについて
基本情報

ワイルドストロベリー
学名 | Fragaria vesca |
別名 | エゾヘビイチゴ、 ヨーロッパクサイチゴ etc |
原産 | ヨーロッパ、西アジア |
科名 | バラ科オランダイチゴ属 |
分類 | 多年草 |
大きさ | 15〜20cm程度 |
開花時期 | 4〜7月頃 |
耐性 | 耐寒性:あり 耐暑性:あり |
活用法 | 料理、ハーブティー、 グランドカバー etc |
”ワイルド”という言葉がついている通り、ワイルドストロベリーは野いちごの一種。
原産はヨーロッパや西アジアですが、明治時代に日本に渡り北海道で野生化したため、和名で「蝦夷蛇苺(エゾヘビイチゴ)とも呼ばれるようになりました。
同じくバラ科の植物には梨(ナシ属)やさくらんぼ(サクラ属)などもあり、ワイルドストロベリーは「オランダイチゴ属」に分類されます。

農家さんがハウス栽培で育て、直売所やスーパーで売られているもの(あまおう、とちおとめ等のいちご)とは違い、葉や実などは全体的に小ぶりです。

多年草ですので、毎年株元からランナー(蔓状の茎)が伸び、先端に子株ができて生長して白く小さな花を咲かせます。
流通している品種の多くは四季咲きで、暖かい地域であれば一年を通して花や実を楽しめます。
前述の通り、北海道で野生化するくらいですから耐寒性は非常に優れており、肥料分の少ない土地でも十分に育つ強い植物です。

活用方法
① 料理

野生のイチゴと聞くと酸味が強いイメージがありますが、ワイルドストロベリーは香りもよく意外と甘さもあるので生食できます。
実が小さく、一般的なイチゴと比べると少し味は落ちますので、たくさん収穫してジャムに加工したりデザートの飾りにしたり、他のベリー類と一緒に使うのがおすすめです。


② ハーブティー

葉は乾燥させ熱湯を注ぐことでハーブティーとして飲むことができます。
飲む際に収穫した実2〜3粒入れると更に香りも引き立ち、見た目にも楽しくなります。
ビタミンやミネラルの他、タンニンのような抗酸化成分も含まれており、ヨーロッパでは古くからお茶として飲まれてきました。
そのままだと非常にスッキリしている為、「お茶を味わう」という点においてはあまり飲み応えがない感じがしますが、ミントやカモミール、レモンバームなど、他のハーブとブレンドすれば更に美味しく飲むことができます。


③ グランドカバー

グランドカバーとは、横に這うように生える植物を利用して土の表面を覆うことで、雑草対策としても有効な手段です。
ワイルドストロベリーは繁殖力も強くランナーを伸ばして横に広がっていきますので、グランドカバーとしても非常に優秀です。
万が一、繁殖し過ぎてしまった場合でも、根の張りが浅めなので掘り起こしたり抜いたりして調整しやすいのも嬉しい点です。
④ ハンギング

室内外の空間を素敵に演出してくれるハンギングは、色々な花やハーブを寄せ植えにして楽しむことができます。
ランナー(蔓)をうまく利用してバスケットから枝垂させることで全体の雰囲気に動きが生まれ、赤い実が付く頃は色合いにもアクセントがつきますのでおすすめです。

ワイルドストロベリーを育ててみよう!
種まき&植え付け
生育環境としては、日当たりが良い場所を好みますが、半日陰でも十分育ちます。
強い西日が長く当たる場所ですと葉焼けすることがありますので、鉢の置き場所や植え付け場所には注意が必要です。

葉焼けしたワイルドストロベリーの葉
ワイルドストロベリーは非常に丈夫である反面、高温と多湿の環境にはやや弱いので、水はけと風通しの良い場所を選んで育てましょう。
<種子から育てる>
▶︎発芽温度は20℃前後。
▶︎春まきは4〜6月頃、秋まきは9〜10月頃です。※地域やその年の気温によって前後します。
▶︎育苗箱に播いた種子は土をかけずに、発芽まで乾燥しないように管理します。
▶︎発芽後は混み合った部分を間引きします。
▶︎本葉が3〜4枚になったら鉢上げ(=育苗ポットに移すこと)してもう少し大きく育てる、または本葉が5〜6枚になったら直接植え付け場所に定植します。

<苗の植え付け>
ワイルドストロベリーはランナーを伸ばして横に広がりながら生長します。
複数の苗を植える場合は、株と株の間隔を十分確保して植え付けましょう。(間隔は30cm前後が目安です。)
長期間同じ場所に植えていると花つき(実つき)が悪くなることがありますので、新たに植え替え(株の更新)をする場合は、場所を移動して植えたほうが生育が良くなります。

同じ株を何年も栽培していると連作障害により実つきが徐々に悪くなっていきます。毎年または1年おきに株を更新することをおすすめします。

土は市販の元肥入り園芸用土で問題ありません。
ご自身でブレンドするのであれば小粒の赤玉土7に対して腐葉土3くらいの割合で配合し、水はけと保水性を同時に確保するのがおすすめです。
植え付け穴をあけたら、たっぷりと水を含ませてから定植します。土を被せたらしっかりと株元に圧をかけてあげましょう。

日常管理
◆水やり
地植えの場合、根付いた後の水やりは必要ありません。
乾燥が苦手なので日照りが続いた時はたっぷりと水を与えてください。
鉢植えの場合は、土の表面が乾いたらたっぷりとあげてください。
株元は蒸れやすく、湿り気がたっぷりの状態で放置すると根腐れを引き起こしますので、鉢の受け皿に溜まった水は必ず捨てましょう。
◆枯葉の除去

生長すると古い葉が順に枯れていきます。
枯れた葉をそのままにしておくと病気や蒸れによる根腐れの原因になりますので、必ず切って都度排除するようにしましょう。
◆ランナーの剪定
株が生長してくるとランナーがどんどん伸びて先端に子株を付け始めます。
子株が付くということは、それだけ養分も分散しやすくなるということですので、親株への負担を軽減して、花や実に養分を行き渡らせるためには剪定する必要があります。
長く収穫するためには余分なランナーを切り取っておきましょう。
ただし、全てのランナーを切り取ってしまうと、それ以上株が広がっていかないため、広がって欲しい範囲や増やしたい株数を考えながら剪定は行ってください。
◆肥料
肥料不足になると葉色が薄くなったり、実や花つきが少なくなりますので、春と秋に緩効性肥料を与えましょう。
ただし、油粕などの窒素分が多い肥料をあげすぎると花つきが悪くなるので注意が必要です。
◆病害虫
葉の裏側や新芽にアブラムシがつくことがあります。日々チェックして発見したら早めに駆除します。
うどんこ病が発生することがあります。うどんこ病は葉に白い粉のようなものがつき一目でわかります。
発生の原因は土中の「糸状菌」というカビで、気温が高く乾燥している環境や窒素分が多い土壌で発生しやすいです。
ハーブ栽培の害虫対策については、下記のページも参考になさってくださ。

収穫

果実が白っぽい色から赤くなって熟したら収穫できます。赤くなったものから順次収穫していきましょう。
たくさん収穫できた時はフリーザーバッグに入れて冷凍保存しておくことが可能です。

葉をお茶用にする場合は、収穫後にしっかり乾燥させて水分を抜き「ドライハーブ」として冷凍庫で保存します。
※乾燥させる場合、フードドライヤーがあれば収穫後一気に水分を抜くことができますので安心です。
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ワイルドストロベリーの品種
ワイルドストロベリーにはいくつかの品種があり、中にはランナーがないものもあります。
葉色や身の色などもそれぞれによって特徴がありますので、好みによって品種選びをするのも楽しいです!
<ワイルドストロベリーの品種(一例)>
・ミニョネット(ランナーが出ない。比較的コンパクト。)
・ゴールデンリーフ(葉が明るい黄色で、観賞用にもおすすめ。)
・アレキサンドリア(ランナーが出ない。原種よりもやや実が大きい。)
・イエローワンダー(ランナーが出ない。薄く黄色い実がなる。)
・ピンクパンダ(ピンクの花が可愛い。主に観賞用)
苗はネット通販でも簡単に入手できますので、まずはプランターで小さく育ててそれぞれの特徴を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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最後に
スーパーや八百屋さんに並んでいるイチゴは、温度管理や病害虫対策など、栽培するのために大変な労力がかかります。(その苦労を考えると、本当にイチゴ農家さんには頭が下がります・・)
しかしながら、今回ご紹介したワイルドストロベリーは果実こそ小さいものの、家庭でも収穫して食べることができ、ちょっとした栽培体験として楽しめます。
また、小さなお子さんの興味を引く魅力的な植物でもあるので、筆者としては、このワイルドストロベリーを是非食育にも役立てていただければと願っています。
子供と一緒に楽しめるハーブとして下記の記事でもご紹介しておりますので、合わせてご一読いただければ幸いです。
