はじめに
「ハーブの女王」として愛されるラベンダー。その美しい花姿や香りの魅力は誰もが認めるものですが、実は一口に“ラベンダー”といっても、花の形や色、耐暑性や耐寒性に至るまで、本当に多種多様な品種が存在します。初めて触れる方にとっては、その選択肢の多さに驚かれることでしょう。
今回は、数あるラベンダーの中でも特に人気が高く、丈夫で育てやすい上に香りも抜群な「グロッソ」に注目。初心者にもおすすめの理由や、その魅力を最大限に引き出す育て方のコツを詳しくご紹介します。
・ラベンダーを育てたいけれど、どれを選ぶか迷っている。
・暑さや寒さに強い品種を探している。
・初心者でも安心して育てられる栽培のコツが知りたい。
ラベンダーの「系統」とは?
ラベンダーについて語るときに、まず押さえておきたいのが「系統」です。
「系統」とは、さまざまなラベンダー品種を大きく分類する親カテゴリーのようなもので、系統ごとに暑さや寒さへの耐性、花の特徴などが異なります。
例えば、今回ご紹介する「グロッソ」は、「ラバンディン系」と呼ばれる系統に属する品種です。
系統を知ることで、育てたいラベンダーの特徴がわかり、栽培環境や適切なお手入れ方法を事前に理解することができます。初心者にとっても、系統の知識はラベンダー栽培の第一歩として非常に役立ちます。
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グロッソの基本情報
学名 | Lavandula × intermedia ‘Grosso’ |
原産 | 地中海沿岸地域 |
科名 | シソ科(ラバンデュラ属) |
分類 | 多年草(常緑低木) |
大きさ | 高さ:70〜100cm 幅:60〜100cm |
花期 | 初夏〜秋 |
耐性 | 耐寒性:あり 耐暑性:あり |
活用法 | ポプリ、ドライフラワー、 精油、入浴剤、 etc |
特徴と魅力
グロッソには主に以下のような特徴があります。
▶︎暑さや寒さに強い
▶︎大きく成長する株
▶︎長い花穂と茎
▶︎香りが強い
▶︎遅咲き
暑さにも寒さにも強い
「グロッソ」は品種名ですが、その系統はラバンディン系に分類されます。ラバンディン系ラベンダーの最大の特徴は、耐暑性と耐寒性のどちらにも優れていることです。
日本は地域によって寒暖差が大きいですが、グロッソはそのような環境にも適応しやすく、暖かい地域から寒冷地まで幅広く育てることができます。そのため、ラベンダー栽培が初めての方にもおすすめの品種です。
ラバンディン系の強さを活かすためには、植え付ける場所が重要です。ラベンダー全般に共通する特徴として、高温多湿には弱い傾向があるため、水はけがよく風通しの良い場所を選びましょう。これにより、グロッソの丈夫さを存分に発揮させることができます。
大きな株に成長する
グロッソは他のラベンダーと比べて株が非常に大きく育ち、草丈が1メートル以上に達することも珍しくありません。枝同士が重なり合うほど密に成長するその姿は、庭を彩る大きな存在感を放ちます。
ただし、「敷地の都合であまり大きくしたくない…」という方は、定期的に株周りをしっかり剪定し、スリムな形に仕立てていけば、限られたスペースでも育てることが可能です。
<鉢植えで育てる場合のポイント>
グロッソを鉢植えで育てる場合、生長後の大きさを考慮して、直径30cm以上(10号サイズ以上)の大きな鉢を選ぶのがおすすめです。2~3年目になると成長速度が増し、根詰まりを起こす可能性があるため、鉢が窮屈に感じられるようになったら、地植えに切り替えるか、さらに大きな鉢に植え替えましょう。
さらに詳しく知りたい方へ
ハーブの植え替えについて詳しく知りたい場合は、以下のリンクをご参照ください。
花穂と茎が長い
ラベンダーと聞いて、皆さんはどんな姿を思い浮かべますか?多くの方が真っ先に思い描くのは、北海道・富良野のラベンダー畑ではないでしょうか。
富良野のラベンダーは、鮮やかな紫で茎の先に可愛い花を咲かせる「イングリッシュ系」と呼ばれるものが多いです。
一方、今回ご紹介するグロッソは、イングリッシュ系とは異なり、花穂と茎が長いのが大きな特徴です。
花の色は薄紫から濃い紫へと変化し、花穂の長さは10センチ以上になることもあります。この長い花穂は、収穫してポプリや精油の蒸留に活用する際、非常に効率が良いのが魅力です。
さらに、茎の長さを活かして「ラベンダースティック」を作るのにも最適です。ラベンダースティックは、生のラベンダーとリボンで作る可愛らしいアイテムで、虫よけや消臭効果があり、飾って楽しむこともできます。
※ラベンダースティックは、生のラベンダーとリボンで作ります。虫除けや臭い消しとして飾ることもできるアイテムです。
グロッソの花穂と茎の美しさや実用性は、他の品種にはない魅力です。ぜひ一度、その特長を体験してみてください。
香りが強い
ラベンダーの香りは系統によって異なり、紹介するサイトや人によって表現がまちまちです。
中には「一番香りが強い」と絶賛するものもあれば、「イングリッシュラベンダーよりは香りが弱め」と評価するものもあり、「結局、どんな香りなの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
香りの感じ方はどうしても主観が入りやすいため、これが正解!と断言するのは難しいのですが、これまで毎年グロッソの開花に携わってきた経験から言えることがあります。それは、グロッソの香りはラベンダーの中でもトップクラスに強く、上質だということです。
爽やかでスッキリとしたフローラル感の中に、ほんのり甘さが漂う柔らかさも感じられるもの。まさに心をリラックスさせてくれる優しい香りです。(もちろん、これも私の主観です!ぜひ皆さんも直接その香りを体験してみてくださいね。)
遅咲き
ラバンディン系のグロッソは、他の品種と比べて遅咲きのラベンダーです。
一般的にラベンダーの開花期は5~7月とされていますが、この期間には地域や気候、気温の違いが大きく影響します。そのため、一概に「ラベンダーはいつ咲く」とは言い切れません。例えば、グロッソなどの遅咲き品種が咲き始める頃、早咲き品種がちょうど開花を迎える地域もあるのです。
筆者が以前勤務していたハーブガーデンでは、濃紫3号やオカムラサキ(いずれもイングリッシュ系)とグロッソ(ラバンディン系)の3品種、約1,500株を栽培していました。中部地方の例では、イングリッシュ系は5月下旬から咲き始め、6月中旬には花が終わります。一方、遅咲きのグロッソは6月上旬から開花し、7月上旬まで美しい花を楽しむことができました。
ラベンダーの花を長く楽しみたい方は、開花期の異なる品種を組み合わせて植えるのがおすすめです。
例えば、早咲き品種と遅咲き品種を組み合わせることで、次々と異なる色や形のラベンダーが庭を彩り、長く花を楽しむことができます。まるで季節ごとに新しい庭が生まれるような感動を味わえますよ!
全国各地のラベンダー園を訪れる際は、事前に開花状況を確認するのがおすすめです。開花時期を知らずに出かけると、「まだ咲いていない」「もう終わってしまった」と残念な思いをすることもあります。無駄足を防ぐためにも、訪問前に問い合わせておくと安心です。
グロッソの育て方
ここからは、実際に育ててみたい!という方のために、栽培の流れとコツを下記の3つのポイントに分けてお教えいたします。
苗選び
ラベンダーの苗は春や秋にホームセンターで販売されていることがありますが、取り扱い品種が限られているため、グロッソが見つからない場合もあります。
もしお近くのホームセンターで見つからない場合は、園芸専門店のネット通販や実店舗を探してみましょう。専門店では取り扱いが多く、グロッソに出会える可能性が高くなります。
・葉色が悪い(斑点があったり黄ばんだりしているのは病気や養分不足)。
・徒長(※)している(日当たりが悪いところに長く保管されており、ひ弱な状態)。
・土の上に苔が生えている(湿気が多く、根腐れしている可能性あり)。
その他、ハーブ苗の選び方にはいくつかのポイントがあります。下記のページにて別途紹介していますので、あわせてご覧ください。
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植え付け
ラベンダーは湿気が多く蒸れることで弱ってしまいますので、植え付ける際には日当たりと風通し、そして水はけの良い場所選びましょう。
痩せている土地でも育ちますので、土壌が肥沃であるかどうかは大きな問題ではありませんが、ラベンダーはアルカリ性の土質を好みます。
できれば、植え付けの1〜2週間前に苦土石灰を混ぜ込んでおくことをおすすめします。
日本の土壌は、ほとんどが酸性に傾いています。その主な理由の一つが「降水量の多さ」です。
雨に含まれる二酸化炭素が土壌に溶け込み、その成分が蓄積することで酸性化が進みます。また、大量の雨が土中の養分を流し去ることも、土壌を酸性に傾ける原因となっています。
酸性土壌は一般的に野菜の栽培には適していませんが、スギナやヨモギなど、酸性の環境を好む植物も存在します。このような植物を上手に利用すれば、酸性土壌でも庭や畑を楽しむことができます。
【複数の株を植える場合】
株と株の間隔が狭いと枝葉が重なってしまい蒸れの原因にもなりますので注意が必要です。
複数の株を植える場合、または付近に別の植物がある場合は、80〜100cm程度の間隔をあけましょう。
【水はけの悪い土地の場合】
万が一、植え付け場所の水はけがいまひとつ良くないという場合は、上記図のように少し高畝にして植え付けることで、水はけの悪さを少し緩和することが可能です。
どうしても敷地内に最適な環境がないという場合はこの方法でトライしてみてください。
植えても植えても枯れてしまう,,,という場合は、そもそもの土質に問題があることが考えられます。
もし植え付け後に中々上手く育たないという方は、下記の記事も参考になさってください。
収穫と剪定
ここからは植え付け後の日常管理とお手入れになります。
ラベンダーはあまり手のかかるハーブではありませんので、下記のポイントをおさえて適切にケアすることで簡単に丈夫に育てることができます。
【開花時期の収穫】
花が咲いたら、収穫も兼ねて随時刈り取りましょう。
※収穫するときに切る位置は、上から数えて3番目と4番目の葉っぱの間(または2番目と3番目の間)くらいが目安です。
※もったいないからと言って刈り取らずにいると、花に養分が集中して株が徐々に弱っていきますので、開花した花は残さず刈り取りましょう。
【開花後の剪定(弱剪定)】
花が咲き終わった頃に一度軽めの剪定を行います。
この剪定の目的は、訪れる夏に備えて株元が蒸れるのを防ぐためです。
枝葉が密集している場合は、しっかりとすき込んで風通しが良くなるようにしましょう。
尚、開花後の剪定では緑の葉が残っている部分(草丈の半分程度)で切ってください。
木質化している箇所の低い位置で剪定してしまうと枯らしてしまう可能性がありますので、切り過ぎにはご注意ください。
【冬越し前の剪定(強剪定)】
晩秋の頃、今度は強めの剪定を行います。
この剪定の目的は、翌年に備えて健康な状態をキープしつつ姿形を整えるためです。
根本から約1/3程度残して、木質化している部分の上部から4枚ほどの葉を残してバッサリと切ります。
強剪定(刈り込み)の時に非常に便利なのが「芝生バリカン」です。
実際に筆者もこのバリカンを利用してラベンダーの手入れを行っていました。
株を丸く刈り込み、迅速に綺麗に整えることができるので超おすすめです!
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【翌年の春に行うこと】
冬を越したラベンダーの茎には枯れた葉がついたままになっていますので、手や箒などで株を揺すって枯れた葉を枝から落とすようにしましょう。
この作業をすることで新芽が出やすくなり、気温が上がってきた頃の蒸れも防ぐことができます。
まとめ
今回はラベンダーの中でもラバンディン系の「グロッソ」という品種について紹介しました。
下記は今回の記事のまとめです。最後にもう一度おさらいしましょう!
【系統について】
・数あるラベンダーの系統の中でも、グロッソは「ラバンディン系」という系統に属する。
→基本情報と系統を再度確認
【育て方のポイント】
苗選び:「葉色がよい」「徒長していない」「土に苔が生えていない」ものを選ぶ。
植え付け:「日当たりが良い」「風通しが良い」「水はけが良い」場所を選ぶ。
(植え付けの一週間〜二週間前に石灰を混ぜ込んでおく。)
収穫と剪定:開花したら必ず収穫。開花後は弱剪定、冬越し前に強剪定。春は枯葉を落とす。
グロッソはとても丈夫で育てやすく、ラベンダー栽培の第一歩として最適な品種だと思いますので、まずはあまり難しく考えずにお庭や鉢に苗を植えてみましょう!
下記の記事では、白花品種(ホワイトラベンダー)だけをご紹介していますので、ご興味ある方はあわせご覧ください。