はじめに
植物の中には、名前や見た目が似ているために混同しやすいものがたくさん存在します。その中には、間違えると危険を伴うものもあり、正しい知識が必要です。
本記事では、よく似ているけれど大きな違いを持つ植物について、具体的に比較しながら分かりやすく解説します。皆さんが苗や種を購入する際、また家庭で栽培される際に役立つ情報をお届けします。
今回取り上げるのは、料理で重宝されるスパイス「サフラン」と、食べると中毒症状を引き起こす猛毒を持つ「イヌサフラン」。一方は美味しい料理に欠かせない存在、もう一方は命の危険を伴う毒性植物です。
見た目がよく似ているこの2つの植物ですが、どんな共通点があり、どのような違いがあるのでしょうか?さっそく詳しく見ていきましょう!
類似する点
「サフラン」と「イヌサフラン」には、いくつかの共通点が見られます。これらは、初心者や植物に詳しくない方が混同しやすい理由の一つとなっています。以下に主な類似点を挙げてみましょう。
「サフラン」と「イヌサフラン」、両者には下記のような共通点が挙げられます。
▶︎名前に「サフラン」という文字が含まれる。
– 両者とも名前に「サフラン」がついており、親近感を覚えやすいですが、用途や特性には大きな違いがあります。
▶︎紫色(または紫に近い色)の花を咲かせる。
– 花の色味が非常によく似ており、特に咲き始めの状態では見分けが難しいことがあります。
▶︎生長後の背丈は20cm程度。
– 両者とも背丈が比較的小さく、庭や鉢植えで育てる際にもコンパクトな姿が特徴的です。
▶︎球根植物で多年草である。
– 球根を持ち、毎年花を咲かせる多年草という点も共通しており、育て方においても似ている部分があります。
こうした共通点から混同されがちな「サフラン」と「イヌサフラン」。次の項目ではそれぞれの基本情報や特徴を掘り下げ、異なる点を詳しく見ていきます。それぞれの違いを正しく把握して、混同による誤解やリスクを避けるために役立ててください。
基本情報
サフラン
学名 | Crocus sativus |
別名 | 番紅花、薬用サフラン etc |
原産 | 地中海沿岸 |
科名 | アヤメ科サフラン属 |
分類 | 多年草(球根植物) |
大きさ | 10〜20cm程度 |
開花時期 | 10〜11月頃 |
花色 | 紫 |
耐性 | 耐寒性:あり 耐暑性:あまりない |
活用法 | 料理、染物 etc |
イヌサフラン
学名 | Colchicum autumnale |
別名 | コルチカム、 オータムクロッカス etc |
原産 | ヨーロッパ中南部〜北アフリカ |
科名 | イヌサフラン科イヌサフラン属 |
分類 | 多年草(球根植物) |
大きさ | 15〜20cm程度 |
開花時期 | 9〜10月頃 |
花色 | 紫、ピンク、白 |
耐性 | 耐寒性:あり 耐暑性:あり |
活用法 | 主に観賞用 ※誤食厳禁! |
イヌサフランの名前に含まれる「イヌ」という言葉は、かつて「似て非なるもの」や「~より劣るもの」という意味で使われていました。
そのため、「イヌサフラン」という名前には、「サフランに似ているけれども、実際には異なる植物」という意味が込められています。この名称が示すように、イヌサフランは見た目こそサフランに似ているものの、用途や性質には大きな違いがあります。
異なる点
一見すると、紫色の花が非常によく似ている「サフラン」と「イヌサフラン」ですが、細かく見比べていくことで明確な違いが浮かび上がってきます。
毒の有無
最も重要な違いとして挙げられるのが、「毒の有無」です。
これらの毒性の違いは、サフランとイヌサフランを区別する上で最も重要なポイントです。
「サフラン」は、パエリアやブイヤベースなどの料理で使われる高価なスパイスとして広く知られています。その鮮やかな紅色の「雌しべ」の部分がスパイスとして使用され、料理に美しい色を添える役割を果たします。
また、サフランは薬効成分を持つことで知られており、古くからメディカルハーブとしても利用されてきました。苦味を感じることはありますが、味そのものが料理の主役になることは少なく、どちらかというと「彩り」を目的としたスパイスと言えます。
一方「イヌサフラン」は全草に毒を持つ非常に危険な植物です。
花は美しく透明感のある姿をしていますが、全草に「コルヒチン」という猛毒を含んでおり、誤って摂取してしまうと下痢や嘔吐、呼吸困難などの中毒症状をもたらします。
葉の部分はギョウジャニンニクやギボウシと間違いやすく、球根はタマネギやジャガイモと間違いやすい傾向があり、実際に誤食した結果、食中毒で死亡した事例もありますので要注意です。
厚生労働省でも毒の成分や中毒の発生事例を公開していますので、詳しく知りたい方は下記のリンクから該当のページをご参照ください。
参考リンク: 厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル:高等植物:イヌサフラン」
サフランは料理などに使われていますが、イヌサフランは絶対に食べてはいけないということをまずはしっかり把握しておきましょう。
科
「サフラン」と「イヌサフラン」は、その見た目や名前が似ているものの、属している科が異なります。
・サフランはアヤメ科に属しています。
・イヌサフランはイヌサフラン科に属しています。
- サフランはアヤメ科に属しています。
- イヌサフランはイヌサフラン科に属しています。
この「科が違う」ということは、植物学的には非常に大きな違いです。
人間に例えると、同じ家族どころか、親戚関係にもないような「全くの別種」といえます。そのため、両者は見た目が似ているだけで、まったく異なる植物として認識して問題ありません。
科の違いを理解することで、サフランとイヌサフランをより正確に区別する手助けになります。このような基礎知識を持つことで、植物を安全かつ正しく扱うことができます。
開花時期
「サフラン」と「イヌサフラン」は、どちらも秋に花を咲かせる植物ですが、開花時期にはわずかな違いがあります。
・サフラン
サフランの花は、10月から11月頃にかけて咲き始めます。特に気温が15℃を下回る時期になると開花が進み、美しい紫色の花を楽しむことができます。
・イヌサフラン
イヌサフランはサフランよりも少し早い9月から10月頃に開花します。同じ秋の時期ですが、サフランとイヌサフランを並べて観察すると、そのタイミングの違いを見つけることができます。
開花時期が異なることで、庭や畑で両者を見分ける際のヒントになるでしょう。ただし、どちらも見た目が似ているため、慎重に見極めることが大切です。
雌しべ
「サフラン」と「イヌサフラン」を見分ける上で、最もわかりやすいポイントが雌しべの色です。
・サフランの雌しべ
サフランの雌しべは鮮やかな赤色をしており、これがスパイスとして利用される部分です。その独特な色合いは、料理の彩りを美しく引き立てるだけでなく、他の植物と区別する際にも非常に目立ちます。
・イヌサフランの雌しべ
一方、イヌサフランの雌しべは白色です。サフランの赤色とは全く異なり、花の中心に控えめに見えるのが特徴です。
雌しべの色は、「サフラン」と「イヌサフラン」を識別する際の最も簡単で確実な方法です。画像を参考にしながら、これらの違いをしっかり把握しておきましょう。
最後に
「サフラン」と「イヌサフラン」は、比較的違いが分かりやすい植物ではありますが、一方で有毒植物であるイヌサフランは、過去に食中毒の事例も報告されています。そのため、今回の記事では注意喚起も兼ねて取り上げました。
イヌサフランに限らず、私たちの身の回りには、見た目が似ているにもかかわらず、片方は無毒で片方は猛毒という植物が多数存在します。中には、触れただけで中毒症状を引き起こす危険な植物も含まれています。そのため、植物の違いを正しく理解し、安全に取り扱うことが非常に重要です。
また、下記のリンクでは、意外と身近に存在する有毒植物について詳しくまとめています。興味がある方は、ぜひ併せてご覧ください。植物を正しく理解し、身を守る知識を深めていただければ幸いです。