はじめに
直売所や道の駅で販売されている農産物や加工品にはよく「無農薬」や「特別栽培」といった表現が使われています。
特に近年は、消費者の間でオーガニック嗜好が高まってきたこともあり、多くの商品に安心安全をうたった表示がされているように感じます。
しかし、実際に商品を手にされる方の多くは、具体的な意味よりも、どちらかといえば言葉やパッケージの印象をもとに選択することが多いのではないでしょうか?
分かっていそうで、実はあまり詳しく理解されていない「無農薬」や「特別栽培」という表示。
読者の皆さんはどれくらい理解されていますか?
本記事では、普段何気なく目にしているそれらの意味や、現在の表記に至った経緯などについて解説させていただきます。
今後のお買い物をするときに少しでもお役に立てば幸いです。
無農薬と特別栽培は同じもの?
先にお伝えしておきますと、無農薬と特別栽培には全く違う意味合いがあります。
言葉そのものを見ると、、
・無農薬=農薬を一切使わず作られた。
・特別栽培=手間ひまをかけて特別に作られた。
と言った印象を受けるかもしれませんが、具体的な定義が曖昧で消費者が混同しやすいため、現在ではそれらの表示についてガイドラインが設けられています。
無農薬とは?
その言葉の通り、農薬を使用していないことを示します。
しかし「無農薬」という表示、最近徐々に見かけなくなっていることにお気づきでしょうか?
実は現在、商品に無農薬という表示をすることは禁止されているのです。
もう無農薬という表記はできない
普段の生活で何気なく使っている言葉かもしれませんが、農林水産省の定める「特別栽培農産物に関わる表示ガイドライン」により、現在販売される農産物や食品の表示上「無農薬」は使用禁止とされています。
この事実に、いまだに驚かれる方が多いのですが、実はこのガイドラインが出されたのが2004年のことなのでもう随分と年月が経っています。
表記が禁止された理由
理由は、簡単に言えば「消費者に誤解を与えやすいから」です。
例えば、自分の畑では一切農薬を使わないで野菜などを栽培しているとしても、お隣の畑で大量の農薬を使用していたとしたらどうでしょうか?
もちろん、自分が栽培している野菜には農薬を一切使用していないので、農家さんは「無農薬野菜」として出荷したいところです。
しかし、もし隣の畑で農薬を使用していたとしたら、風や虫を介して飛散してくる農薬の影響を全く受けていない(=残留農薬がゼロである)と言い切るのは難しいはずです。
そのように、以前は自己申告で「無農薬」と謳えたものには厳密さが欠けるということで、一定のガイドラインを設ける必要があると考えられたわけです。
ここまでご覧になった読者の中には「あれっ?おかしいな。。」と思う方もいるかもしれません。
なぜなら、インターネットで様々な商品を検索したり、観光でおとづれた直売所などでまだ無農薬という表記が生きているからです。
なぜそのようなことが起きているかというと、無農薬という表示自体は、ガイドライン違反であっても罰則がないからなのです。
つまり強制力を持っていないガイドラインであるために、個人の裁量で表示する方もいるという現象が起きているのです。
特別栽培とは?
特別栽培の定義
では、無農薬として販売していた作物が、現在はどのような括りで流通しているかといえば、「特別栽培農産物」として流通しています。
特別栽培農産物の定義は下記の通りです。
「その農産物が生産された地域の慣行レベル(各地域の慣行的に行われている節減対象農薬及び化学肥料の使用状況)に比べて、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下、で栽培された農産物」
(引用元:農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」の説明より)
、、、これもちょっと分かりにくそうな説明なので、シンプルに分解してご説明します。
・各地域で使われているの農薬使用量の半分以下で育てること。
(農薬を一切使用していないものも含む)
・各地域で使われている化学肥料の窒素成分量を半分以下にして育てること。
(化学肥料を一切使用していないものも含む)
つまりこれは、農薬や化学肥料を一切使用せず栽培しても、基準値以下の農薬や化学肥料を使用して栽培しても、どちらも「特別栽培」と呼ばれることを意味します。
上記の通り、特別栽培には「農薬を一切使用していないもの」と「一般的な農法よりは少ないが農薬を使用したもの」があります。
「これでは消費者が混乱して「無農薬」という表示をしていた時代と変わらないじゃないか!」と思ってしまいますが、そこで登場するのが、次の項で説明する「具体的な表示をする」というルールです。
特別栽培品の表示例
特別栽培農産物の表示には、具体的に下記のようなものがあります。
・「農薬:栽培期間中不使用」
・「節減対象農薬:栽培期間中不使用」
・「化学肥料(窒素成分):栽培期間中不使用」
・「節減対象農薬:当地比 ○割減」
・「節減対象農薬:○○地域比 ○割減」
・「化学肥料(窒素成分):当地比 〇割減」
・「化学肥料(窒素成分):〇〇地域比 〇割減」
以前は「無農薬」という一言で分かりやすかった反面、曖昧な性質を持っていた表示。
現在では「特別栽培」という言葉に切り替わり、一見曖昧そうな表現ですが、上記のような表示がしっかりと付けられたことによって、逆に以前に比べて具体的に消費者に伝わるようになりました。
つまり、もし皆さんが、無農薬の農産物を購入したい場合は、特別栽培農産物の「農薬:栽培期間中不使用」や「化学肥料(窒素成分):栽培期間中不使用」という表示がされた商品を選ぶことになります。
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まとめ
▶︎農薬や化学肥料を使わない栽培のことを意味するが、農産物や食品を販売する際の表示上、現在は「無農薬」という表現を使うことは禁止されており「特別栽培農産品」と呼ばれています。
▶︎無農薬という表示は禁止されているが、現在は具体的な罰則がありません。
各地域で使われているの農薬、化学肥料の窒素成分量を半分以下にして育てられた農産物のことで、農薬を一切使用していないものとそうでないものの両方を含みます。
最後に
私たちの身の回りにはイメージだけが先行して、具体的な意味が曖昧なまま使われているものがたくさんあります。
本記事で取り上げた無農薬と特別栽培だけでなく「オーガニック」や「有機」という言葉も一つの良い例です。
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